不眠症
「24時間眠らない社会」を生きている現代人の睡眠は、質、量ともに悪化しているといわれます。不眠を気にするあまり、かえって熟睡できない人も多いようで、体調不良や病気の誘因にもなっています。生活環境、習慣、食事、体操などによって眠りをうまく管理し、心身の疲れを翌日に持ち越さないことが、より健康に生きる秘けつといえましょう。
1.眠りのメカニズム
人間には生まれたときから自然にリズムを刻む「体内時計」が備わっているのです。体内時計は人間だけでなく、すべての生物が持っており、陸上で生活する生物には光(太陽の出と入り)が深く関与します。人間の場合、光が脳の「視交差上核(しこうさじょうかく)」に働きかけて体内時計が調整されることがわかっています。
さらに、人間の生体リズムに深く関わるのは2つの自律神経で、日中は体を活動的にする「交感神経」が優位になり、夜になると「副交感神経」にバトンタッチし、心身を休めて睡眠をとります。また、脳のもっとも奥にあり、脳に体の刺激を伝える「網様体(もうようたい)」も、睡眠と覚醒を担うといわれます。朝は光や音の刺激を網様体が脳に伝えるために脳が活動を開始し、夜になると網様体の働きが鈍るために脳が休息状態に入り、自然に眠くなるのです。
2.睡眠時間って8時間必要?
1日8時間の睡眠が必要という説は、医学的根拠があるわけでなく、多くの人から統計をとった平均的な睡眠時間にすぎません。睡眠時間には個人差があり、1日3〜4時間の睡眠で健康な人も少なくありません。
必要な睡眠時間は遺伝的なものといわれ、中枢神経系の構造と体内の化学物質のバランスが遺伝子にプログラミングされるために個人差が出るといわれています。よって、睡眠は時間よりも「質」のほうが重要となります。
質のよい睡眠とは、熟睡できて、目覚めたときにスッキリとした満足感が得られる眠りのこと。質のよい睡眠は、1日の活動で疲れた脳細胞を回復させるとともに、肉体的な疲労の回復や健康増進に大きな効果があります。
3.理想的な睡眠
睡眠時間は個人差がありますが、理想は、毎日午後10時から10時半、遅くとも12時には眠りに就き、午前3時までの「睡眠のゴールデンタイム」はぐっすり眠ること。同じ5時間睡眠でも、午後10時から午前3時まで眠るのと、午前3時から8時までに眠るのとでは、疲労回復などに大きな差が出てきます。この時間帯に深い眠りが得られると、成長ホルモンの分泌を促し、子どもの体の成長を促進させたり、大人の老化防止に効果があります。この時間帯は脳細胞の休息・発育にとって大変貴重な時間ですから、できる限り子どもには眠ってほしいものです。美容面からいっても、皮膚をつくり出す基底層の細胞分裂は、午後10時から午前2時ころがもっとも活発なことが確認されています。
4.不眠症とは?
ある精神科医の統計によると、不眠を訴える人の数は男女とも40代が最高で、男性では30〜60歳、女性では30〜70歳が全体の約8割を占めています。
不眠症は次の2つに分けられます。
・症候群性不眠
心臓疾患や心身症、ノイローゼなどの病気が原因で起こります。病気の治療が必要です。
・機会性不眠
精神的緊張や興奮、慣れない環境や条件、騒音、暑さ寒さ、空腹感、コーヒーやお茶の飲み過ぎなどが原因で起こります。生活を振り返り、原因を明らかにして取り除くことが大切です。
5.眠りを誘う食べ物
睡眠のためにはバランスのとれた食生活が基本です。良質のタンパク質を中心に、植物性脂肪と糖類を適度に摂り、ビタミン類とミネラルも必ず加えましょう。
とくにビタミンB郡を多く含む牛乳や肉類、卵黄、魚介類、レバーを摂ると、起きているときの代謝レベルを高め、それが睡眠中の代謝レベルを高めることにつながり、熟睡が期待できます。また、カルシウムが不足すると、神経伝達に支障をきたし、イライラや不眠の原因になります。カルシウムは牛乳や小魚類、海草類、アーモンドなどに多く含まれます。
6.よく眠れて快適に起きるための体操
精神的な疲労が蓄積している一方、肉体は慢性的な運動不足であるというアンバランスが、現代人の不眠の誘因になっているといわれます。運動で適度に体を疲れさせると、血行を促進すると同時に精神的なストレスを解消し、寝つきをよくしてくれます。柔軟体操やウォーキング、軽いジョギングなどが効果的です。寝る直前にハードな運動をすると、その刺激が就寝時まで残り、かえって寝つきを悪くするので避けてください。
そこで、寝る前に布団の上で手軽にできる体操を紹介しましょう。
<体操ポイント>
・体操中は頭の中を空っぽにしてリラックス。
・息は鼻から吸って「ハァー」と声を出して吐く。
・息を吐きながら上半身の力を抜く。
・1つの体操を10回行うだけでもよい。
・毎日の習慣にする。
7.熟睡のための簡単な生活ポイント
寝る前に37〜39度ぐらいのお風呂に20分くらい入ると、心身ともにリラックスできて、自然な眠りに就くことができます。シャワーには交感神経を鎮静化させる効果があります。少し高めの水圧で、長めに浴びるとよいでしょう。
毎日決まった時間に寝て、どんなに遅く寝ても朝は必ず決まった時間に起きる、休日はゴロ寝で過ごさないなど、体内時計のリズムを乱さないよう心がけましょう。
指圧・マッサージは、血行を促進し、自律神経のバランスを調整するなど、快適な眠りを得るためには重要な手段となります。定期的な施術を受けることで、質の高い眠りと快適な目覚めを獲得することが可能になります。